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「あなたが土岐亘ですか?」
高校二年生。夏休み明けの始業式の日。放課後。
俺は、転校生に話しかけられている。
つい先程まで、俺は席に座っている転校生のことを見ていた。
俺が窓際の一番前の席で、転校生が廊下側の一番後ろの席だから、ちょうど対角線上。
この教室の中で一番距離が遠い場所。
「ねえねえ、天翔さんってどこの学校から来たの?」
「好きなタレントとかいる?」
「連絡先交換しようよ」
転校生はクラスメイト達に囲まれていた。
当の本人は、まるで何も聞こえないように、というよりも、まるでそこに誰もいないかのように微動だにせず、真顔でそこに座っていた。
背筋がぴんと伸びて、視線は目の前の女子を通り抜けてその先を見つめているようだった。
「あ、天翔さん?」
「おーい、聞いてる?」
ざわつく周囲の様子に気付いた風でもなく、転校生は立ち上がった。
そして、頭だけを動かして、こちらを見た。目が合った。
転校生が左に向きを変える。足を一歩踏み出す。取り巻きたちが、さあっと道を開ける。
風を切るように、けれども音を立てずに、転校生は俺の方に向かってきた。
俺が、がたんと音を出して立ち上がると、転校生が目の前で止まった。
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