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「あなたが土岐亘ですか?」
真っ直ぐに俺の顔を見つめてくる。
その目には、口を開いてへっぴり腰になっている俺の姿が映っているはずだ。
そもそも自己紹介をした覚えがないのになぜ俺の名前を知っているのだろう、とか「あなたが」の「が」に含まれている意味は何なのかとか、たくさん聞きたいことはあった。
もしかして、俺はこいつに会ったことがあるのではないだろうか。
俺はまじまじと彼女を見つめる。
眉のラインで切りそろえられた前髪。全体の長さはギリギリ肩につくくらい。
黒髪。黒いメガネ。よく見ると切れ長の目だ。
胸は、えっと少し小さ……。
こほんと咳払いが聞こえた。
「早く私の質問に答えてください。『はい』か『いいえ』で済む話でしょう」
「あ、はい、です」
「わかりました。話があります」
「え?」
「二人で話しましょう」
ちょっと待って。せめて変な日本語になった俺に、突っ込みくらい入れてほしい。
彼女は表情を変えず、俺に背を向けた。
そのまま歩き出し、前の出入り口から教室を出て行った。扉は開いたままだ。
しん、とした空気に周りを見渡すと、クラス中の奴らから注目を浴びていた。
そんな目で俺を見ないでほしい。
俺に状況説明を求めているようだが、俺だって全然飲み込めていないんだ。
どうしてこうなった。
もしかして夏休みに助けてあげたあの子? 実は小さい頃に引っ越していった幼馴染?
だったら嬉しいけど、そんな人がいた覚えもない。
ちょっと朝から一日を振り返ってみよう。
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