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「しょうがないじゃないか。税金を無駄にするわけにはいかない。私たちは公務員なんだから」と、神宮寺は困った様子だ。
「夢を叶えるってことはな、大変なことなんだよ」
「しかしこれではいつまでたっても夢を叶えることができませんよ!」
熱くなる朝日をうんざりした様子で「いいか」と、高田が諭している。
「人の夢はただ叶えればいいというわけではない。その夢に対してどれだけの思い入れを持っているか、どれだけ重要な意味を持つのか、入念な調査を経て決めるべきなんだ」
神宮寺は朝日にたずねた。
「朝日くん、君の夢はなんだ?」
朝日は唐突な質問に「僕の夢ですか?」と少し驚いた様子だったが少し考えた口を開いた。
「僕は、ずっと夢のない人間でした。自分はいったい何のために生きているんだろうと、そればかり考えていました。子どもの頃から他人を応援するのが好きで、自分のことは二の次に考えていたので、自分のやりたいことが分からなかったんです。そんなときふと、自分は他人の夢を叶えるサポートはできないかと思ったんです。それこそが自分の夢なんじゃないかと。だから僕はこの仕事を選びました」
「選んだ?この仕事を?自分で?」高田が尋ねた。
「はい」と答える朝日を見て、高田は「ふっ」と笑う。
「この国では夢は努力しても叶わないんだ」
神宮寺はしゃがれた声に一層の哀愁を漂わせると「君のその夢はね・・・」と言いかけたところで、午後の終業を告げるチャイムが鳴った。
「では話しの続きは明日ということで」
夢を叶える公務員たちが足早に会議室から立ち去っていくその背中を、朝日はいつまでも見つめていた。
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