あの香りの正体

4/4
前へ
/4ページ
次へ
卒業式の日 校長先生の式辞や卒業証書授与 本来なら感動で泣くんだろうけど僕は何も思わなかった。卒業する実感がないんだろう。 体育館を出たら後輩達が居て笑顔で拍手してくれている。 良い後輩を持ったなぁ。 教室に戻ると担任は一人一人に手紙を渡しありがたい言葉を言っていた。 クラスの女子の大半は泣いていた。 男子も泣いていた。 それは、担任の手紙や言葉のせいで泣いていた訳ではなかった。 隣の席にだけ沢山の花やお菓子やジュースがが山のようになっていた。 けど、あの子は座っていた。 しかしあの子が座っているように見えたのは僕だけだった。 あの子が泣いていたあの日の晩、あの子は学校の屋上から飛び降りて死んだ。 飛び降りた先には咲きかけの金木犀があった。 鮮やかな色の血には金木犀のオレンジ色の花が散らばっていた。 どうやって入ったのかは分からなかったらしく学校のセキュリティーの管理の甘さが、問題視されるようになった。 僕の記憶はあの時から変わらなかった。 何一つ時間が進むことはなかった。 ずっと僕はあの子のことが好きだった。 もし、あの時声をかけていたら死ぬのを辞めていただろうか。 あの時、勇気さえあればあの子も僕も何か変われたかもしれない。 そんなことを今になって思ってももう遅いのに...。 〝ずっと好きでした。〟 呟くように言ってみた 〝ありがとう。私もずっと好きでした。〟 返事が返ってきたように聞こえた。 急いで隣の席を見ると笑顔でこちらを見ていた。 〝バイバイ〟 口パクでそう言ったあの子は消えていった。 消えた瞬間、金木犀の香りがパッと消えた。 そこで初めて僕は涙が出た。止まることはなかった。 いつも秋になるとあの子のことを思い出す。 僕は金木犀が大好きだ。 end.
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加