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「夢を叶えるには、やはり悪魔の存在が必要だ!」
深夜の寂れた街角で、男は大きく叫んだ。その表情は嬉々としており、よく見れば身なりも悪くない。高級そうなスーツだけではなく、体つきもよく鍛えられているとわかる良い体格をしていた。
男と小さな台を挟んで向かい合うのは、夜に溶けてしまいそうなほど黒いフードを目深に被った占い師。小柄な占い師は、男とも女ともわからないしわがれ声で笑う。
「あぁ、そうさね。で、あたしが言ったものは集まったのかい?」
その言葉に、男は快活な笑みを見せる。
「もちろんです。死海の塩、ニュートンのリンゴ、アルビノのマグロに骨のあるタコ。吸血蝙蝠が吸ったアミルスタン羊の血、夜にしか咲かない桜の花びら。これらを生贄として儀式を行えば、悪魔を呼び出して願いを叶えてもらうことができるんですよね!?」
食い気味に話す男に対し、占い師は落ち着いた調子で口を開く。
「あの日、それこそ死神みたいな顔をしながら歩いてたあんたに嘘なんかついちゃいないよ。それにしても、よくもまぁやり遂げたもんだ。仕事を辞めて、五年もかけて生贄集めに奔走してたんだろう? 願いを叶える前に、少し話を聞かせてくれはせんか」
「ええ、いいですよ。順番に話すとすれば、アラビア半島の死海からですかね? イギリス国立物理学研究所で警備員に見つからないようニュートンのリンゴの木の子孫から実をとったのも忘れがたい思い出ですし、なによりアミルスタン羊の血を手に入れるのは大変だったなぁ……。なんせ、アミルスタン羊っていうのはあれですからね。最初、あなたからその言葉に隠された意味を知ったときは本当に――」
男は、国々を旅して奇異な生贄を集めるさなか、自分の身に降りかかった災難を冒険譚でも話すかのようにしゃべった。時に言葉を尽くして激論と呼ぶべき交渉をしながら、法律に違反して物を盗んだり、冷血な心になりながら人が来るのを洞窟で待ち続けたりしたことを。
ずいぶんと舌が回るようで、男の話は千ページを超える重厚な物語のように思えた。占い師は男の言葉の一つ一つにうんうんと唸りながら聞き入り、男が話し終わったのは、二人が会話を初めて実に五時間後だった。
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