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「五年前と変わらず、上司の不幸です。長らく会っていませんが、やつから受け続けたパワハラは一つ残らず覚えています。それでは、失礼します」
軽い足取りで街へ消えていく男を見ながら、占い師はずっと堪えていた笑いを漏らした。
「くくっ……五年もかかえて揃えた生贄で叶える夢はひとりぽっちの不幸かい。まぁ、そこはどうとでもなるね。置き換えて書きゃあいいんだから」
占い師は、ローブの中に潜ませていたボイスレコーダーを取り出してほくそ笑む。
「今回の馬鹿はかなり面白い話を持ってきてくれたね。あの話をそのまま本にすりゃまたそこそこ稼げそうだ。主人公がとろいサラリーマンじゃ味気がないし、そのあたりは適当に考えるとして……くくっ。今回はいくら貰えるだろねぇ」
早朝の町に不気味な笑い声を響かせながら、占い師は台の中に置いてあった数冊の本を取り出す。どれも実体験を基にした冒険活劇ホラー小説で、読んでいるだけなのに追体験しているような気持ちになるリアリティのある描写が高い評価を受けている。
そこに、今度は七冊目が加わる。占い師は笑みを隠し切れなかった。
「やっぱり、夢を叶えるには他人の夢を利用するのが一番さね。夢って言葉をぶら下げりゃ、頭の軽い馬鹿はすぐに飛びつくもんだ」
ぽつりとそんな言葉を漏らし、占い師はそそくさと帰宅の準備をする。黒いフードを深く被り、不気味な笑い声を響かせながら帰路を歩くその姿はまさに悪魔のようだった。
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