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「トヨホギに会ってきたのか」
心の中を見透かされた気がして、シキタカはわずかに動揺した。それにホスセリが軽く笑う。
「なにも我に秘密にするほどのことでもあるまい。シキタカは我が弟。我が妻となったトヨホギとは、義理とはいえ姉弟の関係になったのだから。それになにより、幼少のころから共に過ごしてきた間柄だ。シキタカがトヨホギを訪ねても、誰もなんとも思うまいよ」
「兄者。……それでは示しがつかないぞ」
「うん?」
「大君の皇子たちの醜い争いを見ただろう。その種になりうるものは、排除しておかなければならないんだ」
「おまえが、それを言うか」
ホスセリが皮肉に片頬を持ち上げる。
シキタカはわずかにうろたえ息を呑むと、目の奥に力を込めて兄の視線を受け止めた。
「表向きは、そうして立場を外に示しておかなければ」
「おまえだけが気負っていても、どうしようもあるまいよ。それよりも、いままでのように睦まじい兄弟として、不埒な輩が入り込む隙などないと示しておくほうが、我はうれしい」
「兄者」
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