【初夜】

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 艶やかな黒髪は肩にかかるほどの長さで、左右に分けられた前髪が、男らしく、けれど女性的な柔和さを宿す輪郭に沿っている。もともと白かった肌は、戦のためにか日に焼けており、小麦のような健康的な色をしていた。ゆったりとした白の上衣は、くちば色を主とした、深緑と金糸で細かな文様が描かれている帯で縛られている。袴も白で、他にどのような装飾もなく、彼の秀麗な容姿の邪魔をすることなく、ホスセリの身を包んでいた。 (こんなに男らしく、たくましい人だったかしら)  三年という月日の成せる技なのか、過酷な戦を体験してきたからか、送り出した日よりもずっと、たくましく感じられる。  そうしてトヨホギがホスセリの姿に目を奪われているのとおなじく、ホスセリも吸い込まれるようにトヨホギを見ていた。  つややかで長い黒髪は、ゆったりと白い衣に包まれた背にうねり落ちて、寝台の敷布に不思議な模様を描いている。肌は雪のように白く、血の色が透けて見えるように澄んでいる。頬がほんのりと赤いのは、緊張の高揚に包まれているからか。卵のように、つるりとした形のよい繊細な顎。細い首。そこから伸びる女性特有のゆるやかな曲線は、ホスセリが旅立ったころ、まだ少女だったトヨホギが、すっかり乙女になったのだと示していた。祈るような格好で指を組み、引き寄せている手に潰されている胸の柔らかさが、布のシワから伝わってくる。 (これほど清らかな相手を、我はこれから汚すのか)  ひるむような動揺と望みを乗せた手を伸ばしたホスセリは、トヨホギの頬に指先を当てた。ぴくりとトヨホギの肌が震える。思わず指を離したホスセリは、そろそろと彼女に触れなおした。 (ああ)     
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