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ホスセリの声が揺らぐ。トヨホギはじっと、彼の瞳を見つめた。ホスセリが、頬に触れているトヨホギの手首を掴む。彼女の細い腕を伝うように、ホスセリはトヨホギの肩に額を乗せた。
「正直なところを言うと、どう受け止めていいのか、わからないのだよ」
ポツリとこぼしたホスセリの背に、トヨホギは腕を回した。ホスセリの手も、トヨホギの背に触れる。
「戦とは、魔物だな。人が人を殺すことに、なんの意味があるのだろう。憎くもない相手を屠り、己の正義を押し通す。……ましてやそれが、大君のふたりの皇子のどちらが、次代の大君になるかというものだというのだから、馬鹿げているとしか思えぬよ」
「……ホスセリ」
痛ましそうにトヨホギが呼べば、ホスセリの腕に力がこもった。
「大地を統べ、民を安寧へと導くお方を選ぶために、大地を民の血で汚すなど、矛盾している」
「ええ、そうね。本当に、その通りだわ」
ホスセリの父の他にも、命を落としてエミナの地を二度と踏めなくなったものは少なくない。それだけでなく、彼等が戦に出ていた三年の間、国の営みは老いた者と女子どもの手で行わなければならなくなった。働き盛りの男手が失せた生活は、残された者たちにとって辛く苦しい日々だった。
「戦など、せぬほうがいい」
ホスセリのつぶやきに、トヨホギは深く同意する。
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