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戦が終わり、こちらが勝ったと胸を張って帰ってきた一団は、土ぼこりにまみれ、疲れ切った姿をしていた。ようやく帰ってきたのだと、彼等の安否に神経をすり減らしていた者の中には、待ち焦がれていた夫や息子の死を告げられて、糸が切れたようにくず折れ、獣のような慟哭を放つ者もいた。生きて帰ってきたはいいが、なんらかの傷のために、体が不自由になってしまった者もいる。
「本当に……、よく、無事で」
帰還の惨状を思い出し、トヨホギはすがるようにホスセリを抱きしめた。
「ホスセリも、シキタカも無事でよかった」
トヨホギは幼馴染の兄弟の無事を確認した時の、なんとも言えぬ安堵を思い出し、噛みしめる。
「生きていてくれて、よかった」
しみじみと告げたトヨホギに、ホスセリはわずかに頬をゆるめた。
「トヨホギが息災で、何よりだったよ。我もシキタカも、ふたたびトヨホギに会うぞと、合い言葉のようにして敵に挑んでいたからな」
「まあ」
「トヨホギは、我等の守りの女神だ」
「そんな」
はにかむトヨホギの頬が、ホスセリの大きな手に包まれる。
「ホノツオジ皇子は、二度と戦はしないと誓ってくれた。多くの民は、今回のことで戦の愚かしさを知ったことだろう。だが、政という名の戦がはじまる」
わかっていますと、トヨホギは眉をキリリと引きしめてうなずいた。
「これから、苦労をかけることになる。トヨホギ……、エミナの国王の妻として、民や我を、支えてくれるな?」
「もちろんよ、ホスセリ。私はそのために存在しているんだから」
気負いなく答えたトヨホギに、ホスセリが笑みを向ける。トヨホギもおなじ笑みを返した。
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