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【初夜】
新緑の色をした幔幕の内側。
禊を終えたトヨホギは、羽衣のようになめらかな純白の衣を身にまとい、寝台の上に座っていた。
「いよいよなのね」
薄い笑みを浮かべた唇から、そろりとした吐息が漏れる。トヨホギは緊張と喜びに轟く胸を、手のひらで押さえた。
これからトヨホギは、エミナ国の王となる、ホスセリの妻になる。
物心ついたころから、夫になる人だと言われ続けたその人と、いよいよ夫婦になるのだ。
トヨホギは深く息を吸い込み、長く細く吐き出した。いまさら緊張をする必要もない。ただ笑って、彼を迎え入れればいい。
トヨホギは体の動きの全てが心臓に凝縮されたように、高鳴る胸を押さえつつ、身じろぎもせずにホスセリを待った。
しばらくして、トヨホギの耳に足音が届いた。それが近づくにつれ、トヨホギの心音が高まっていく。足音は幔幕の前で止まった。トヨホギが、ぎゅっと手を握り締めると同時に幔幕が開き、それが元の形に収まる前に、大きな影が滑りこんできた。
「トヨホギ」
落ち着いた、柔らかな声にトヨホギは顔を上げた。
「ホスセリ」
三年ぶりに見る彼の姿に、トヨホギの目は吸い込まれた。
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