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序章
その日、グラム皇国の皇子である自分、エリアス・ロード・グラムは一人山中で馬を走らせていた。
ここはグラム皇国の領内ではない。
父王の名代として、第一王位継承権を持つものとして、外遊中の出来事だ。
隣国との併合を望む声があがる中、下地を作るための外遊だった。
雪混じり、横殴りの雨の中、夕闇が迫ってくる。
共に連れていた侍従達とはぐれ、途方にくれる。
有力領主との会談から帰る途中だった。
案内の従者も借りていた。
降りだした雨に、近道だからと連れられた脇道。
何処をどうしたのか、いつの間にか取り残された。
山中から抜けようと、降って行ったハズだ。
なのにどうだろう、切り立った崖を前に馬を止める。
雨は依然強く、先の見通しが利かない。
戻るか、進むか。
俊巡したその一瞬、雷鳴が鳴り響く。
驚いた馬が棒立ちになったが、何とか踏みとどまる。
が、頭上から岩が崩れてきた。
馬もろとも崖の淵から転がり落ちながら、弟達の事が頭に浮かぶ。
まだ王位継承権を持つに至らない弟達。
帰ったら鍛え直さなくては・・・。
そう思っていたのに。
それが叶わないのかと、諦めながら。
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