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サンジョバンニの夜
夜。
アルノ川の河畔に立ち、痛む身体をさすりながら、夜空に浮かぶ大輪の花を見上げていると、背後から声をかけられた。
「よお、チャンピオン」
振り向くとジュリオがビール瓶を二本持って立っている。
「よせよ、勝ったのはアンタだろ。寝技に持ち込まれちゃかなわねえ」
笑うとジュリオもニヤリと口角を上げた。
「本業の話だ。三田村煙花店。お前さんとこの花火は見事だったぜ」
「パゴット工房だって悪くない。海外にも凄い職人がいるってわかって勉強になった」
「でっかい花火を上げに来たって言ったよな? お前さん、あの花火は誰のために上げた?」
しばし痛む首をさすったあと、ゆっくりと答えた。
「さあな、観客に楽しんでもらいたいってのは、当然ある。ただ、それだけでもない。俺が俺の花火に満足できるかってのは大事だ。正直、サンジョバンニに捧げようなんて気持ちはないな。フィレンツェ市民には申し訳ないが」
「俺の花火ね……。わかるぜ。俺だってサンジョバンニのためじゃねえ。模範的フィレンツェ市民だけどよ」
そう言うと、ジュリオは豪快に笑う。人を気持ち良くさせる響きだなと、翔也は思った。
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