サンジョバンニの朝

1/2
前へ
/6ページ
次へ

サンジョバンニの朝

サンタクローチェ広場は、朝から観光客でごった返していた。 三田村翔也は時代行列を待つ人波に流されないよう、通りを進む。 ボクシングで鍛えた屈強な身体を持つ彼でも、これだけの人の群れをかき分けて進むのは容易ではない。 今日は六月二十四日――サンジョバンニの祝日。 時代行列、カルチョ・ストーリコ(古式サッカー)、花火。朝から晩まで続く様々な催しに、市民も観光客も一日中熱狂する。 特に今年の花火大会は地元の花火工房だけでなく、日本など海外の業者も参加するとあって注目を集めており、日本人観光客も目立っている。 翔也は西へと進み、トルタ通りに入る。噂話を頼りに、小さなカフェを探す。 そこにジュリオ・パゴットがいるという。 店はすぐに見つかった。 待っていてくれ、フィレンツェの暴れ花火さんよ、と翔也は強く念じながらドアをくぐる。はたして彼はそこにいた。 店内の一番奥のテーブルでひとり優雅に朝の一杯を楽しんでいる男。動画で何度も見た顔だ。 簡素な白のシャツと精緻なタトゥーに包まれた肉体は屈強の一言。五分に刈りそろえた頭髪、切れ長の大きな眼、厚めの唇。     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加