沈丁花を辿る

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(よしっ)  芳瑞の存在も忘れ、高々と腕を突き上げる。その背後で呼応するかのように拍手が沸き起こった。 「やっぱり、きれいだし、早いなあ。手慣れてるし、さすがだね――えっと、シューズラックはこれで本当に完成?」  興奮しきった声に面映ゆさが襲い来る。康宏はあわてて腕を引っ込めると体を返した。 「そ、そうですね、あとはこのまま、夕方まで乾かします。そのあと、底も塗って仕上げに目の細かいサンドペーパーをかければそれで……」 「そうか、まだ、いくつか工程はあるんだね。手がかかってるんだなあ。それだけ造りもしっかりしてるってことなんだろうけど。あれかな? 小萩くんは大学とか専門学校とかでこういう勉強してたの? それとも、誰かに習ったの?」  片手を上の窓枠に、もう一方の手を窓のサンについて芳瑞はベランダへと身を乗り出す。その何気ない問いにぎくりとし、気恥ずかしさもふと冷めた。 「い、いえ、叔父が趣味で作っているのをときどき見てたので……」 「見てたのでって、ええ? それだけ? 見てただけで覚えちゃったってこと? はああ、それは元々、そういう素質があったってことなんだろうけど――あ、片付け、おれにも何か手伝えることがあったら……」  芳瑞は屈み込み、ハケとバケツに残った塗料をチラシで拭い始めた康宏の手元を覗き込む。それをやんわりと制すると康宏は専用の溶剤でハケとバケツをすすいだ。
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