沈丁花を辿る

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 当然のことながら子供たちが多い売場とあって小さなハプニングは日々、起きた。迷子を筆頭にケガやおもちゃのサンプルの奪い合い、さらにはお漏らしや嘔吐など。嘔吐にいたっては最初は口を覆い、尻込みもしたがアルバイトの頃ならいざ知らず、正社員ともなって見て見ぬ振りはできない。平気な顔で処理できるようになるまでにはそれなりの時間もかかったが今では率先して処理もできるようになった。  夕方の六時を過ぎると売場もようやく落ち着きを見せ始める。七時近くにもなると子供たちの姿はもうほとんどなかった。 (後はバイトくんたちだけでも大丈夫だよな……)  閉店までの残り一時間、康宏は事務仕事を片付けるためバックヤードへと踵を返す。そのとき、エプロンのポケットに入れていたPHSが振動した。あわてて取り出し、小さな画面を覗き込む。そこには警備室の番号があった。 「はい、ティンクルスターの小萩です」  少なからぬ不安に襲われながらショップ名と名前を名乗る。警備員は同様に応じるとすぐさま本題に入った。 『小萩さんから向かって左奥の隅で怪しい動きをしてる男の子がいます。気を付けて見ておいてください』  防犯カメラで康宏の姿をも捉えているのだろう、警備員は康宏の視線を誘導するように注意を促す。康宏は思わず、とっさに天井の防犯カメラを振り返り、はっとしてそちらへ向かった。一つ手前の棚の陰から首を伸ばすと件の男の子と思われる小学校中学年ぐらいの子供の姿が目に入ってくる。こちら側に背を向け、しゃがみ込んでやたらときょろきょろしているのを見るにつけ、康宏の気分は重くなった。
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