沈丁花を辿る

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『今度は反対の隅に……』  言われてそちらへ行くと子供はまた先ほどと同じようにしゃがみ込んで辺りを見回していた。しかも、よくよく見れば子供は人目を気にしているわけではなく、ずっと下ばかりを見ている。明らかに万引き犯とは行動が違っていた。 (一体、何を……)  しばし、じっと子供を見つめながら考える。そして、はたと思いついて康宏は子供の側に寄った。 「もしかして何か落としたの?」  膝に手をつき、屈みこむと子供は顔を起こし、たちまち、くしゃりと歪ませる。 (……当たりか)  康宏はやれやれと内心でまた深い息をついた。  子供は『子供』とつい一括りにしがちだが子供の行動にも個性やいくつかのパターンがある。同じ事態に陥ったとしても子供たちはみな全く違う反応を示す。迷子一つをとっても大きな隔たりがある。親とはぐれた途端に泣き出し、何を聞いても答えられない子がいるかと思えば反対に「ぼく、迷子」と自ら訴え出る子もいる。故意ではなく、遊んでいたおもちゃが壊れてしまったときなどには自分は何もしていないときちんと主張できる子もいるが怒られると思い、ひたすらに隠そうとする子もいる。目の前の子供はどちらかと言えば後者のように思えた。
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