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「何を落としたの? 一緒に探すから教えてくれるかな?」
まず子供を遊び場として開放しているプレイエリアに移動させ、仕切り代わりの色とりどりのクッションの上に座らせる。隣に並び、できるだけやんわりと尋ねたが予想通り、子供はうつむくときゅっと口を引き結んだ。
「もうすぐ七時半だよ。お家の人も心配してるんじゃないかな? 早く見つけてお家、帰ろ? お腹もすいたよね」
ちらりと腕時計を見て時間を確かめると康宏は首を傾げて子供の顔を覗き込む。子供は一瞬、顔を起こしたものの康宏と目が合うと再び、視線を落とした。
「落としたのは大きいもの? 小さいもの?」
「……」
「一生懸命探してたもんね。きっととっても大事なものなんだね。どこで落としたか覚えてる? このお店に入ってから?」
「……」
「何か一つでもいいから教えて? もしかしたら誰かが拾ってお店とか交番に届けてくれてるかもしれないし、ほら、この電話で聞いてあげるよ?」
頑なな子供に対し、康宏は焦らず、辛抱強く問い、PHSを見せる。だが、やはり答えはない。
「じゃあ、代わりにぼくのお家のこと教えて。お家はどのあたり? ここから近いの?」
仕方なく康宏は矛先を変えた。
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