沈丁花を辿る

15/174

329人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
(これはもう警備員さんにお願いして、この子の親に連絡をとってもらうしかないかなあ……)  店に戻り、PHSを下ろしてこっそりと息をつく。拠点と思われる箇所に届けられてない以上、閉店間際に闇雲に探し回ったところで小さな鍵が見つかるとも思えない。だが、心細い思いをしているだろう子供をまるで万引き犯のように警備員に預けるのも忍びなく迷う。軽快な呼び出しベルの音が鳴り始めたのはそのときだった。アルバイトたちが揃って自身のスマートフォンを取り出すもすぐに元に戻す。康宏のものでもない。周りにお客さんはいない。そこにいるのは件の子供だけだった。 「ぼくのスマホ鳴ってない?」  屈み込むと子供はびくりと体をすくませ、渋々、スマートフォンを取り出す。画面には『お母さん』の文字があった。留守番電話サービスに切り替わったのか、しばらくして呼び出しベルは一度切れたもののまたすぐに鳴り出す。察するに母親が心配してかけてきているのだろう。しかし、子供は怒られるとでも思っているのか画面を見つめるだけで一向に取ろうとしない。 「おれが出てもいい?」  自分の顔を指差し、尋ねると子供はずいぶんと躊躇した後、康宏にスマートフォンを差し出した。 「ありがとう」  受け取り、画面に指をすべらせる。その途端、若い女性の声が空気をつんざいた。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

329人が本棚に入れています
本棚に追加