沈丁花を辿る

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『榊っ! 今、どこにいるのっ? おばあちゃんたちが心配してるでしょ、さっさと家に帰りなさいっ!』  そのあまりの剣幕に子供――榊はみるみる青くなり、助けを求めるように体をすり寄せる。康宏は榊の背を撫で、大丈夫だよ、とうなずいてみせるとスマートフォンを耳に押し当てた。 「もしもし、榊くんのお母さんですか? わたし、ティンクルスターというおもちゃ屋の小萩と申します。こんばんは」  相手に不審感を与えぬよう意識してゆっくりと話し出す。電話の向こうからは息を呑む気配が伝わってきた。 「ティンクルスターというおもちゃ屋、ご存知でしょうか?」  続けると一呼吸、間をおいた後、先ほどとは打って変わった控えめな答えが返ってくる。 『え、ええ、あの、国道沿いの電器屋さんの横にあるおもちゃ屋さんですよね』 「はい、榊くん、今そこにいるんですけどどうやら自転車の鍵をどこかに落としてしまったらしくてお家に帰れないんです。差し出がましいようですがもし、よろしければ迎えに来てやっていただけないでしょうか?」  簡単に状況を伝え、康宏は警備員に託そうと考えていた提案をそのまま口にする。榊はぎゅっと康宏の腕を掴んだ。
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