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『ええっ? 自転車の鍵をですか? んもう、あの子はっ――って、すみません、迎えですね。えっと、お店は何時までですか?』
「八時です」
『……八時かあ――わたし、実は今、職場からの帰宅途中なんです。今日はちょっと残業になってしまって。なので、あの、代わりのものをやりますので申し訳ないんですがそれまでもう少し預かっていただけないでしょうか? 三十分か、もしかしたらそれ以上かかっちゃうかもしれませんけどできるだけ早く行ってもらうようにしますので』
すみません、すみませんと繰り返す思案気な声はひたすらに恐縮している。
「分かりました。では、お迎えの方がいらっしゃるまで榊くんとお店でお待ちしてますね。お店は閉まってしまいますので電気も落ちてるかもしれませんが自動ドアの近くにいるようにしますのでいらしたらドアを叩いてくださるようお伝えください」
そう言うとすぐさま『ありがとうございますっ』と答えがある。深々と頭を下げる様が見えるようだった。
「それじゃあ、榊くんに代わりますね――はい、お母さんだよ」
断りを入れた後、かきつく榊にスマートフォンを返す。榊はスマートフォンと康宏を交互に見ていたがゆっくり康宏から離れると恐る恐る、手を伸ばした。
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