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「お母さん、ごめんなさい……」
開口一番、小さな涙声が詫びる。その後、うん、うんと何度かうなずいていたかと思うと榊は電話を切った。天井のスピーカーからは閉店間近を知らせる蛍の光がすでに流れ始めている。康宏は急いでショピングセンターの事務所、警備室と電気や空調を管理している設備室にこれまでの経緯と閉店後に榊の迎えが来る旨を連絡した。
「おれ、今日はちょっと遅くなりそうだからレジ締め終わったらみんなは先に上がってて。じゃあ、お疲れさま」
閉店作業に必要な書類にあらかじめ判を押してしまうと大体の流れは理解したであろうアルバイトたちに手を上げ、榊を連れて移動する。入口横のベンチが並ぶシーティングスペースには甘く香ばしい香りが立ち込めていた。
「榊くんはポップコーン、好き?」
尋ねると榊は顔を上げて潤んだ目を輝かせる。康宏はデニムパンツのポケットから財布を抜き出し、小銭を取り出すとかわいらしいキャラクターの描かれたポップコーンの自動販売機に投入した。
「塩とバターとキャラメル、どれにする?」
振り返ると榊はキャラメルのボタンを指差す。康宏は榊を自分の前に立たせると榊の指の上に指を重ねてボタンを押した。賑やかな音楽が流れ出し、キャラクターのおしゃべりとともにポップコーンが温められて、ぽんぽんぽんっと軽快に弾ける音が響く。出来上がったものを取り出し、榊に手渡すと榊は「……ありがとう」とはにかんだ笑みを見せた。
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