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榊をベンチに座らせると同時、八時となり、店内放送が途切れる。警備員が訪れ、他に残っている客がいないかを確認すると自動ドアの電源を切った。
「終わりましたら、また連絡ください。鍵をかけにきますので」
それだけを言い残すと警備員は次のショップへと移っていく。レジ締めも終わり、アルバイトたちがバックヤードに引っ込んだのか入口付近の照明と空調だけを残して周りは暗くなった。
「お店は終わっちゃったけど大丈夫だよ。ここでお迎えがくるの待ってようね」
不安そうに首を巡らせる榊を宥めるように声をかけ、再び、隣に座る。榊がポップコーンを食べ終わるとおもちゃのサンプルやゲームを持ってきて遊んだ。幸い、子供が長時間いても退屈せずにすむだけのものがここにはある。榊も徐々に落ち着きを見せ始め、表情も和らいだ。だが、やはり迎えは三十分経ってもまだ来ない。一時間近くが過ぎ、まもなく九時になろうかというときになってようやく、どんどんどんっと自動ドアを叩く音と振動が伝わってきた。
「あ、来たかな?」
はっと榊と顔を見合わせ、立ち上がる。薄暗い自動ドアの向こうに駐車場の灯りを背にした大きな人影があった。
「榊!」
ガラス越しにくぐもった声が響く。
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