沈丁花を辿る

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 サンディングを終え、手についた大量の木の粉を払って体を起こす。腰の後ろに手を当て、ゆっくりと背を反らせると小萩康宏は口を覆っていたタオルを首へとずらした。粉塵よけのゴーグルも外すと軽く頭を振る。大きく息を吸うとどこからともなく漂ってきた透き通るように甘い花の香りに胸が満たされた。  三月も終わりが近くなって、ようやく寒さも緩んできた。手がかじかむこともなくなり、ワンルームマンションの狭いベランダでの作業もだいぶ捗るようになった。康宏の目の前には細い角材を枠状に組んだ支柱、それに斜めに寝かせた板を横に渡した小振りでスリムなシューズラックがある。ペインティングもまだのそれは木肌もむき出しで妙に白々としているが頭で思い描いた通りの形となっている。 (……うん、なかなかいい感じだよな)  康宏はふと口元をほころばせた。  ここまでの製作期間は約二週間。おもちゃ屋勤務という職業柄、不定期で飛び飛びになった休みの四日間を利用してようやくそれはできあがった。四日間と言っても実際の作業時間はもっとずっと短い。一人暮らしとあって休みとなれば日頃できない掃除や買い出しに走り回っているうちに午前はあっという間に過ぎ去り、その後、軽く昼食をとって午後、ようやく作業にかかるも後片付けの時間を計算し、かつ、近所迷惑にならないようにと考えればそうそう長くもやっていられない。
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