沈丁花を辿る

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「小萩くんは?」 「え?」 「小萩くんはこれからどうするの? もう仕事は終わりだよね。今から家?」  またしても駐車場の灯りを背負い、芳瑞は自動ドアの隙間をこじ開けると顏を覗かせる。康宏は質問の意図が掴めず、ぽかんっと口を開いた。 「小萩くんはここまでは何で来てるの?」 「……それは通勤のことでしょうか? でしたら、バスと電車ですが」 「ええっ? それってものすごく遠回りなんじゃないのっ?」  芳瑞はすっとんきょうな声を上げる。 「じゃあ、えっと、通勤時間はどれくらい? 今からだと家に着くのは何時頃? ずいぶんと遅くなっちゃうんじゃないの?」 「……そうですね。通勤は一時間ぐらいでしょうか。ですので、今からだと十時過ぎですね」  家まで知っている相手に隠したり、嘘をついたところで意味がない、康宏は素直に答えた。もともと大学生の頃、居候していた叔父の家から大学に通うバスの路線上にある、という理由だけで選んだアルバイト先だった。引っ越しの際、通勤時間も考慮したがそもそもが郊外とあって交通の便は極めて悪い。きちんと所定の月額駐車料を払えば自動車やバイクでの通勤も可能だったが従業員用の駐車場の数には限りがある上、現状、康宏は自分の車を持っていない。不便でもいたしかたなかった。
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