沈丁花を辿る

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「よし、じゃあ、一緒に帰ろう」 「は?」 「榊を送っていって車も乗り換えてってことになるけど、それでも一時間はかからないし、少なくとも座っていられる分、少しは楽だと思うよ」  ぐっと両手で自動ドアを押し広げ、体を大きく乗り出して芳瑞は提案する。康宏はのけ反った。 「で、でも、おれ、まだ、報告したり、いろいろすることが……」 「なら、なおのことだよ。遅くなったのはおれたちのせいなんだし、その報告っていうのもおれたちのことだよね? だったら、ますます放っておけないよ――じゃあ、榊の自転車積んだら、この前で待ってるからね。勝手に帰っちゃダメだよ」  一方的に言い募り、釘を刺すと芳瑞は榊を連れてくるりと体を返す。思わぬ成り行きに康宏はしばし、呆然と二人の後ろ姿を見送った。自動ドアの少し先まで行って駐輪場を指差したかと思うと榊はそちらへと走り出す。芳瑞がそれに続いて二人は視界から消えた。康宏ははっと我に返り、あわてて自動ドアを閉める。急いで警備室に電話をかけた。
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