沈丁花を辿る

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 〇 〇 〇  翌日、七時過ぎ、カーテンの隙間から差し込む光に目を瞬かせて康宏はようやくもぞもぞと起き出した。いつもは十一時半からの遅番出勤でも朝は六時半に起き、準備を始めるが休みとあってスマートフォンのアラームもセットしていない。うーん、と体を伸ばし、軽くストレッチをしてカーテンを開けると外は快晴だった。 (やった、絶好のペイティング日和だ……)  着替えて顔を洗うと掃き出し窓を開け、ベランダに出て大きく息を吸い込む。また、どこからともなく漂ってくる瑞々しく爽やかな花の香りが胸いっぱいに満ちた。 「おはよう。どこかに沈丁花が咲いてるんだね」  すでに聞き覚えた声が降ってくる。見上げると隣のマンションの一階上の窓に芳瑞がいた。 「……おはようございます。昨日はいろいろ、ありがとうございました」  ぺこりと頭を下げると芳瑞は「いやいやいや、こちらこそ」と大きく手を振る。  あのあと、すべてを片付け、従業員出入口から外に飛び出すと芳瑞が言った通り、ショップの前に一台のミニバンが止まっていた。 『さあ、乗って乗って』  康宏に気付いた芳瑞が車を降り、助手席のドアを開ける。三列シートの二列目には榊が収まり、その後ろには自転車が積みこまれている。康宏がためらいながら乗り込むと芳瑞は運転席に戻り、車を発進させた。
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