沈丁花を辿る

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『晩ご飯まだだよね。何か食べていかない?』  ショッピングセンターの駐車場から国道に出ると芳瑞は目についたファミリーレストランの看板を指差す。自分はともかく、榊がお腹を空かせているだろうとうなずくと芳瑞はウインカーを点滅させ、ステアリングを切った。そのあと、三人で食事をすると芳瑞は今日のお礼だと言って康宏の分まで含めた支払いをした。 『ポップコーン買ってもらったって聞いたし、これぐらいは』  そう言うとお金を出そうとする康宏の手を押し返す。しばし、レジの前で押し問答を繰り返したが年長者でもあるからと芳瑞は引かず、お金は受け取ってもらえないまま引っ込めるよりほかなくなった。  再び、車に乗り込み、ファミリーレストランを出ると車は国道を逸れ、脇道へと入っていく。幹線道路の灯りが遠のくと暗い中、田んぼがぽつぽつと目につくようになってくる。そこから岡上家まではものの数分、芳瑞が門扉の前に車を停めると家からは若い女性が飛び出してきた。 『小萩さんですか? 榊の母で芳瑞の妹の岡上楓です。このたびはいろいろご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたっ』  あらかじめ連絡が入っていたのだろう、康宏が車を降りるなり、楓は勢いよく頭を下げる。榊の母というにはずいぶんと若い楓に康宏は一瞬、戸惑ったが何度も何度も丁寧に頭を垂れる姿はひたすらに息子を案じていた母親のものだ。康宏は楓が頭を下げるたび、いえ、と首を振り、ほっと息をついた。
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