沈丁花を辿る

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「こ、こんなので大丈夫かな?」  一息つき、芳瑞は恐る恐る体を起こす。康宏は芳瑞越しににシューズラックを覗き込むと、はい、と笑った。ずいぶんと動きが固くなっていたものの存外、ダイナミックなハケ運びが功を奏したのか塗料は均一に伸び、色ムラもない。 「大丈夫どころか、おれなんかよりよっぽどお上手ですよ。正直、ちょっとびっくりしました。できればその勢いで下の二段目と一段目も塗っていただけると助かるんですが……」  茶目っ気を出し、ちらりと上目遣いに芳瑞を見ると芳瑞はぶるぶるぶると全身を揺さぶる。 「ダメダメ、もう無理無理無理。これ以上やったら絶対、ぼろが出るから……」  ハケをバケツに入れ、ゴム手袋も取って両手を上げると掃き出し窓をくぐるように部屋に戻ってきた。康宏はこみ上げる笑いをかみ殺しながらバケツに塗料を注ぎ足し、芳瑞に代わってベランダに出る。ハケを取ると続きを塗り始めた。芳瑞に伝えた要領通りに下二段の横板の裏を塗り終えると小さなハケに持ち替え、板の側面、木口、支柱と丁寧に塗っていく。支柱の底面だけを残して裏側を終えると手の跡がつかないようシューズラックの上下を元に戻し、さらに入念に隅々まで塗り切ってペインティングは終了だった。
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