沈丁花を辿る

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「それにしても叔父さんかあ、同じ『おじさん』でもおれとは大違いだなあ」  どっかりと座り込み、あぐらをかくと作業を見つめながらいい年をした大の大人が口を尖らせる。 「すいぶんと慕われていたようですが……」 「いや、でも、『芳くん』だよ。伯父さんっていうよりももう明らかに遊び友達だよね。威厳も何もあったもんじゃないよ」  膝の上に肘をつき、てのひらに顎を乗せてぼやく姿に康宏は思わず、吹き出した。ハケとバケツを洗い終え、ウエスで水気を取ると日陰に干す。ゴム手袋を外すとぱん、ぱんっと手を打ち払った。それを合図に芳瑞は立ち上がり、脇に下がる。康宏は部屋に戻って改めてシューズラックを眺めた。 「自分で作ったものともなるとその分、愛着も沸くんだろうね――あ、図々しいんだけど差し支えなければシューズラックの写真、撮らせてもらってもいいかな? ちょっとだけだけどおれも色塗りしたんだぞって榊に自慢してやろうかと思って……」  芳瑞はぺろっと舌を見せるといそいそとデニムパンツのポケットからスマートフォンを取り出す。どうぞ、と応じると芳瑞はベランダへと体を出し、向きを変え、角度を変えて何枚かの写真を撮った。 「おお、我ながらいい感じ」  画面をスライドさせながら体を返すと芳瑞は康宏へとスマートフォンをかざす。だが、それを見るより先にどこからかふいに、ぐうう、とお腹の鳴る音が聞こえてきて康宏は芳瑞を見上げた。
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