沈丁花を辿る

37/174
前へ
/174ページ
次へ
「あはは、なんか朝メシ食うタイミング逃しちゃって……」  芳瑞はたちまち真っ赤になってお腹を押さえる。 「……簡単なものでもよろしければ何か作りましょうか?」  ちらりと壁の時計を見て康宏は芳瑞を窺った。朝、食べていないのは康宏も同じだがタイミングを逸したのは康宏がこちらへ来ないかと声をかけたせいかもしれない。 (お昼には少し早いけどブランチなんてのもありかな……)  時計ははまもなく十一時を指そうとしていた。だが、またしてもぶんぶんと大きく手を振ると芳瑞はスマートフォンをポケットに戻す。 「と、とんでもないっ。コンビニ行って適当に買うからおれのことは気にしないで。気持ちだけいただいとくね、ありがとう。じゃあ、そろそろお暇するね」  そう言うと芳瑞は康宏の横をすり抜けていく。 「あ、あの、では、途中までご一緒させていただいてもいいですか? おれも買い出しにいかなくてはならないので……」  康宏はなぜだかとっさに芳瑞を振り仰いだ。 「え? ああ、うん、おれは全然構わないけど。シューズラックはあのままでいいの?」 「はい、雨が降らない限り問題はありません」  言いながら急いで窓を閉めるとスマートフォンと財布、いつも携帯しているエコバッグを掴んで走り出す。揃って玄関を出るとエレベーターに乗った。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

329人が本棚に入れています
本棚に追加