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「じゃあ、これで。今日はいろいろ楽しかったよ。ありがとう」
またね、と手を挙げると芳瑞は何度も振り返りながらコンビニエンスストアの中に入っていく。康宏は軽く頭を下げ、見送ると再び、歩き出した。
一人になり、ぼんやりと歩いていると否応なく巧のことが頭を過ぎる。巧から覚えたこと、教えてもらったことはたくさんあった。木工しかり、料理しかり、車の運転に効率のよい掃除の仕方、アイロンがけが楽になる洗濯物の干し方、そして……。
(巧さん……)
ふいに立ち止まり、康宏は己の体を抱える。体までもが巧を思い出し、きゅっと疼く。巧との関係は芳瑞と榊のような純粋な『おじと甥』だけには到底、収まりきらない。一緒に暮らしていた七年間のうち、およそ五年間はそれをはるかに超える関係にあった。
始まりはどちらからだっただろうか。康宏からだっただろうか、それとも、巧からだっただろうか。いや、どちらとも言えない。ただ、父や母、祖父や祖母がどんなに勧めても結婚どころか女性と付き合うことすらせず、一人離れて静かに暮らす巧がゲイだと分かったうえで康宏はマンションに半ば押し掛ける格好で転がり込んだ。
巧は自身がゲイであることを決して大っぴらにすることはなく、いつもうまく隠していた。だが、祖父母に請われてときどき、ふらりと顏を覗かせる巧を幼いころから康宏はずっと見ていた。ずっと憧れていた。そして、長じるにつれ膨れ上がる、その気持ちがなんであるかを知ったとき康宏はそれに気が付いた。だとすれば、きっかけを作ったのは康宏だったのかもしれない。
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