沈丁花を辿る

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(まあ、確かにマガジンラックと言われれば、そう見えなくもないか……)  腰に手をやり、苦笑する。シューズラックは小振りも小振り、寸法で言えば幅六十センチ、高さ九十センチ、奥行はわずか十五センチしかない。玄関の置きたいと思うスペースをまず測り、そこから割り出した結果がそれだった。  そもそも康宏が木工を始めたきっかけが部屋の狭さだった。ワンルームマンションの部屋というのはとにかく何もかもが小さい。コンパクトと言えば聞こえはいいが七畳ほどのフローリングの部屋に一人立つのが精一杯なキッチンとユニットバス、玄関。そこに生活用品のすべてを収めようとすれば自ずと無理が出る。決して物が多いわけでもなかったが収納の基本ともいえる三段のカラーボックスを通路に置いただけで通行に支障が出るというありさまには閉口した。  頼みの綱のオンラインショッピングサイトで『小さい』『薄い』『省スペース』をキーワードに見て回りもしたがやはり、どれもが大きい。そうして行きついたのが『それならば部屋に合わせて自分で作るしかない』という結論だった。  かと言って、それまでの康宏に物作りの経験があったわけではない。せいぜいがプラモデルを組み立てたことがあるといったレベルだ。それでも康宏が木工に至ったのは父方の叔父――小萩巧の影響があった。
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