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 障害者の害の文字には悪意がある、障がい者と書け。と言った偉い人は誰だっただろうか。否、そもそも偉い人だっただろうか。それすらよく覚えていない。  どちらかというとそんな世間の言葉よりも、目の前の当事者の言葉の方がよっぽど説得力がある。 「結局社会の役にも立てない害だと思ってるくせに偉そうだよね」  コツ、と指先に当たった机の上のシャープペンをおもむろに持ち上げて両端を摘むように持ち、先端に当たった左手はそのままに右手で軸を持ち直す。 「やっぱりそう思うんだ」 「ほとんどの人は心優しいんだけどね。やっぱり道を塞ぐだけの邪魔者って思う人も、いるよ」  こちらから差し出したA4用紙を左手で受け取り、平手で机に押しつけて右手に持っていたシャープペンを紙の上にそっと押し当てた。 「待って、芯出てない」  自分の筆を一度置き、彼女の手に握られているシャープペンのノックを押し込み芯を少しだけ出させると、彼女はこちらに顔を向けありがとう、と言って笑った。  あと二ヶ月後に卒業を控えた一月。ゴゼンチュウにすでに部活が終わっていたこともあり、美術室に自分たち以外の人の姿はなかった。 「祐ちゃん、何描いて欲しい?」  祐介のことを祐ちゃん、などと呼ぶのは幼なじみのひとみだけだ。それも普段は許していないのだが、周りに人がいない今は特別だ。 「ひとみの描きたいものでいいんじゃない?」 「あー、そうやって適当に逸らす……そろそろ集中したい?」  紙の上に意味もなくペンを走らせてくるくると歪な円形を増やしていく。同じところを何度も重ねているつもりなのだろうが、少しずつ右にずれていっているのは黙っていた方がいいのだろうか。 「祐ちゃんの絵、早く見たいな」  その言葉に何も言えずに、祐介は返事にもならない息をひとつ吐いた。
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