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 ひとみの瞳がなくなったのは、高校二年の春のことだった。とても不幸な、最悪の事故だった。今思い出すだけでもひどい吐き気に襲われるので詳しい話は省略することにする。  端的に言うとひとみとひとみの兄が一緒に乗っていたバイクが信号無視の車に轢かれたのだ。それで兄は死に、ひとみは両目の視力を失った。なんてことはないよくある事故だ。  生まれたときから美人だと分かる綺麗な顔の中でも、特に綺麗な丸い瞳をしているからひとみ。そんな素敵な由来だったのに、皮肉のようだと言ったのは誰だったか。  綺麗な顔は包帯だらけで、いつも幸せそうに弧を描いていた口元は強く引き結んだままで。大好きな兄の死に、光を二度と感じることが出来なくなってしまった自分の体に、毎日泣いていた。  否、あのときの彼女は泣くことすら出来なかった。その為の機能すら奪われていた。  普通に生きたい、と。そう願ったのはひとみだった。今更障害者の世界で一から生きていく勇気がない、今の世界から切り離されるのが怖い、と。  ふさぎ込んでいたひとみの手を取ったのは、ただの同情だった。
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