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一人がステップを間違えて、その場で転ぶ。転倒した音と共に、リズムを口ずさんでた子が止まる。
「大丈夫? 香那」
「うん、ごめん……」
「大丈夫だよ。ほら、もう一回……」
「うん……」
「ねぇ、もうやめにしない? 香那ももう疲れたでしょ?」
「え……」
私が黙って香那を見つめれば、彼女はバツの悪そうな顔をする。何か言いたそうに唇を動かすけど、すぐに引き結ぶ。そして、何も言わない。
(あぁ、もう! イライラする!)
「でも、さっきより良くなったよね」
「そうそう、少しずつ成長してるよ!」
俯いた香那を見て、残りのメンバーが彼女を庇う。
「梓、少し休んでていいよ。あたしらでステップ練習しておくから」
「そうそう、梓は何でも一回で出来ちゃう天才だから仕方ないよ」
「……あっそ」
お言葉に甘えて歌恋の動画を見ることにした。乱暴に椅子を引いて、深く腰掛ける。脚を組んでタバコに火を点けると、香那が咳き込み始めた。
「何? 私の足を引っ張るだけでなく、規制までするの?」
「そんなつもりは……」
俯く香那を励ます二人は、リズムを口ずさみながらステップを踏む。
「ふん!」
面白くない、何もかも。
スマホの画面に映る私の顔は、眉間にしわを寄せていた。いけない、と思い満面の笑顔を作る。すぐに表情は切り替わり、テレビや雑誌で見るアイドルになった。
この笑顔に何度も助けられてきた。お母さんやお父さんが機嫌が悪い時、私が笑えば一緒になって笑顔になる。友達が泣いてる時、隣で笑えばいつの間に泣き止む。
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