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「……え?」
いつの間にか、両手で強く握り締めていたスマホから、訊き慣れた声がした。その声は今も歌い続けている。
(疲れてるのかな?)
きっと、そうに違いない。
私に話しかけてきた声は、対話することが出来ない。だって、今もこうして歌っているんだから――。
恐る恐る手を開き、スマホの画面を覗き込む。すると、声の主がまたも声をかけてきた。
『私のことが羨ましいんでしょ?』
「ひっ!?」
歌声と重なって、歌恋の声がする。しかも、私に語りかけてきた。
『ちょっと、酷いんじゃなーい? ひっ、て何よ』
「だって、いきなり声をかけられたら驚くじゃない!」
ハッ、として辺りを見回す。はたから見ればスマホに驚き、話しかけてる図にしか見えない。
ジッ、とこっちを見つめる香那と目が合う。でも、彼女は慌てて視線を逸らして、ステップの練習に励む。
『それで、どうする?』
「何が?」
顔を近付けてきた訳じゃないのに、耳元で囁かれているような錯覚に陥る。
『私とあなたを交換するって話』
「そりゃ、出来るなら……」
願ってもいないチャンス。ずっと憧れていた歌恋になれるなら、何だってする。違う、人気アイドルになれるなら何だってする。
『じゃあ、交換成立ね♪』
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