3人が本棚に入れています
本棚に追加
ペダルから足を離しても、坂を下る自転車はスピードをグングン増していく。
眩しい夏の日差しを受け、道路に陽炎が立っている。顔に当たる風が心地よい。
ヒャッホーと叫び声を上げながらコジはぼくの二十メートル程先を走っている。
コジの奴、なんで競走しようなんて言い出したんだろう。
コジの自転車が下り坂のお終いを通りすぎた。続く登り坂を暫く惰性で走ったあとで、
コジはチラリとぼくの方を向いてから、体重をかけてペダルを漕ぎだした。
五秒程遅れて、ぼくも坂の底を通過。後ろを振り返るとマサミとサヤがゆっくりと坂を
下りてくる。あの二人は最初から競走する気なんか全然ないんだ。
「おーい。谷田部。早く来いよ」
コジが上り坂の途中から叫んでいる。
この坂を登りきったところが、アイツの決めたゴール地点なのだ。
でも、そこがぼくたちの目的地というわけではない。
そもそも、ぼくたち四人が何処を目指しているのかというと、隣の町に一か月ほど前に
オープンしたばかりの水郷公園だ。
そこは水道の浄水場に併設された公園で、浄水場の仕組みを解説した展示施設が建って
いる。そこを見学して夏休みの自由研究にしようというわけだ。
最初のコメントを投稿しよう!