(1)「マンゲツさんとわたしのおはなし。」

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「あ…、今日のホイップ、なんだかいつもと違う香りがする。」 お替りがほしくて瓶をあけると、なんだか素敵な匂い。 このホイップハニーは、マンゲツさんお手製のハチミツクリームなんです。 ハチミツってちょっと喉に引っかかる癖があって、甘いけど苦手だったわたし。 でも、これを食べた日から、ハチミツはわたしの中で大好物に変化しました。 マンゲツさんも、これにはちょっとしたこだわりがあるようです。 なので私の反応に、マンゲツさんはすぐに「でしょ!」と顔を明るくしました。 「解る?今日は森の広場に咲いていた、銀月草の花蜜が入ってるんだよ!」 「銀月草?」 「月の綺麗な夜に、稀に咲く珍しい花でね、蜜が格別に美味しいんだよ!」 「そうなんだ、とってもいい匂いです。」 「サイトウさんたちが集めてきた一級品だからね。」 マンゲツさんはそう言うと、窓から見える森の奥のほうを指差しました。 あれ・・・、そこに窓なんてあったかな・・・。 このお店、時折彼の需要に応じて姿を変える事もあるんです。 料理をしながら彼が手元を探していると、すぐそこに道具箱を作りだしたりとか。 多分その窓も、いまこの瞬間に店が作ったものですね。 私が見ると、そこには蜂たちが群れて飛んでいました。 サイトウさんというのは、彼らミツバチさんのうちの一匹の事です。 マンゲツさんが飼っている、この店には欠かせない、偉大なる蜂蜜調達スタッフなのです。 彼らは毎日、朝早くから森の中を飛び回って、色んな花の蜜を集めてきます。 その日によって調子のいいハチ、悪いハチがたり、それぞれの個性や嗜好も様々。 だから、集めてくる蜜も、その日によって味が微妙に変わってきて、面白いです。
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