(1)「マンゲツさんとわたしのおはなし。」

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マンゲツさんは、その名前の通りの熊さんです。 この世界でよく見るような獣人さんではありません。 ごく普通のツキノワグマで、でも胸の模様が満月のようにまんまるなので、 「満月模様のマンゲツさん」だと、みんなそう呼んでいます。 マンゲツさんは人の言葉を理解し、人の様に話します。 人間のように会話して、人間の様に行動し、島の人たちと仲良く生活しています。 しかも彼は、なんとこの島でカフェまで経営しちゃってるんです。 それは、街はずれの小さな森の中にあります。 大きなセカイジュモドキの樹を、そのままお店にした、古本カフェです。 そしてわたしは、彼のお店で働いています。 実はわたしたちは、「ちょっといい関係」なんです。 「やあ、おはよう。」 わたしが朝お店に入ると、マンゲツさんはもう準備を始めています。 銀縁のちょっとお洒落な眼鏡を愛用し、店のロゴの入った赤いエプロンを身に着け、 獰猛な肉食動物のはずなツキノワグマの姿が、なんともいい感じになってます。 その格好で店に立つ彼を、人々は「クマさん可愛い!」とか「癒し系なクマさん♪」 などとほめたり噂したりします。 でもたぶん、マンゲツさん自身は自分を熊だとは思っていないかもしれません。 きっと自分の事を「熊のような人間の一種」だと思ってる気がします。 そういう事をわたしたちは特に話したりしないので、よく分かりませんが。
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