(1)「マンゲツさんとわたしのおはなし。」

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「あれ?少し寝不足そう?」 マンゲツさんは、わたしの顔を覗きこんできました。 「あ、はい…昨日ちょっと夜遅くなっちゃって。」 「ありゃあ、また時間忘れて、書いてたんでしょ。」 「はい、でもなんだかうまくまとまらなくて、結局ダメだったんですけど。」 マンゲツさんは優しく目を細めると、わたしの頭に大きな手を乗せて、撫でてくれます。 実はわたしは、絵本作家なのですが、今の所全然ダメな感じでして、 マンゲツさんはそんな私を応援してくれています。 「大丈夫、本当に君が書きたいものを、じっくり煮詰めればいいんだよ。」 「そうですよね…、でもそれが難しくて。」 「人間は、ついつい欲がでちゃうからね。」 「う…」 そう、考えてしまうのは、ついつい欲が出てしまう事。 「楽しませたい」って気持ちが変な方向に進んじゃう事。 マンゲツさんは、それが正しい方向に進めば、いい物語ができるっていつも言います。 マンゲツさんは本が好きで、色んな本をお店で読んでいて、 時々頼まれて本の批評までするぐらいなので、多分凄い人なんだと思います。 そんなマンゲツさんが、わたしには絶対それが書けると言うのだから、 たぶんきっと、いつかは書けるのだろうと、不思議な安心感もあるんですが… こんな楽天的な考え方を持ってしまってもいいのだろうかと、不安にもなります。 だから、このお店でもっともっと色々勉強して、 がんばっていい物語を、書こうと思っています。
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