(1)「マンゲツさんとわたしのおはなし。」

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 幸い、このお店には勉強の材料はいっぱいあるので助かってます。 樹齢何千年という、セカイジュモドキの大樹の内部はちょっと変わった造りになっていて、 店内は、それが木の中とはとても思えないほど、しっかりとした空間になっています。 そこに、同じ大樹で作られた大きな本棚が、壁いっぱいに上から下まで囲まれていて、 そこにはマンゲツさん曰く、この世界に存在するあらゆる本が収められています。 やってくるお客さんは、そこから自由に本を手にとって、読書を楽しみます。 おいしい珈琲や紅茶、ケーキと一緒に、気が済むまで読書をして時間を過ごされます。 空洞のような店内を見上げると、天井には大きな透明の窓が一つあります。 この島の精霊の森の中にある、精霊王の泉の中で何百年もの間磨かれていた、 ガラスの様に透き通る水晶で作られた、特注の天窓です。 普段は木の枝葉で茂っていて、昼間は木漏れ日がキラキラと零れて輝きます。 光が本当に、この天窓を通ると雨のしずくのようになって、こぼれてくるんです。 夜には明るい月光と星空の光が、天窓から銀色の光線のようにふりそそぎ、 そこに集まる光の精たちが、シャンデリアのように店を明るく照らしてくれます。 昼も夜も、この店ではめいっぱい読書を楽しめるので、 私は仕事の合間にはいつも、ここでたくさんの絵本を読み漁るのです。
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