(1)「マンゲツさんとわたしのおはなし。」

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 壁の中には、不思議な感光素材がそこかしこに埋め込まれています。 天窓から来た光が、それに反応して独特な済んだ音を鳴らします。 それはまるで静かに流れる音楽のようで、皆の気分を癒してくれます。 時折その音に合わせて、光の精霊達が楽しそうに踊る姿も見られたりするので、 夜には読書だけではなく、それを楽しみに来るお客さんもいたりします。 「少し休憩しようか。」 ランチタイムの少し前に、朝食セットの終了どきにマンゲツさんが言いました。 「はいこれ、一息いれて。」 わたし専用のカップにカフェラテを作ってくれたマンゲツさん。 ふわふわのミルクの上に、にっこり熊さんのラテアートが可愛いです。 わたしはそれを受け取って、お気に入りのソファ席へ向かいます。 休憩時や空いた時間には、そこで読書をするのがわたしの日課なのです。 そうそう、この本棚にもちょっとした不思議があるんです。 なんとこの本棚、そこに座る人にあわせて変化するんです。 なんというか、その人の好みを覚えているというのか… そう、私が座るときには、いつもいっぱいに絵本が収まっているんです。 でも、別のお客さんが座った時には、その人は違う本を読んでいるんです。 何度か確認しましたが、ホントに毎回、みんな違う種類の本を読んでいます。 さらに、同じ本でも時々変化があったりします。 同じ題名なのに、言語が違っていたり、絵柄が変わっていたり。 名作などは訳された年や翻訳者が違うものが入っている事もあって、 表現の違いや、国や文化によって登場人物が変わっていたり、とても面白いのです。 でも常連さんが、その日やってきて必ず読む本については、 本棚はその人が来る時に、必ずその人の本を用意しているのです。
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