邪心の戯れ

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【邪心の戯れ】   邪神はこの世界が大好きである。邪神は人間をつかさどる神・・・。邪神は人間の頼みごとをよく聞き、受け入れてその通りに世界を作り変えることを趣味としている。そして、その世界がどうなるかの予想観測を立て、実験をするのである。人間はこのように作り変えられてきた。  ある男は、争いのある世界を憂う善良な市民であった。男は、邪神に願い事をしてしまったのだ。 「世界から武器を一つ残らずなくしていただきたい。」  邪神はその願いを快く受け入れた。翌日、世界から武器が跡形もなく消えた。ある人々は歓喜し、ある人々は嘆き悲しんだ。後者は、ある意味わかっていたのかもしれない・・・  争いは、しばらくのあいだ、収束したように見えた・・・が、今まで、武器によって抑えられていた人々がこぞって蜂起し、争いは結果的に増えてしまった。人間は自身が動物であることを忘れている。動物は種の保存のため、争いを宿命づけられているのである。  男は懲りずに、邪神の下へ行った。 「武器をなくしても争いはなくなりませんでした。なぜでしょうか。」 「武器は、力の一種・延長であって、争いの源ではないからだよ。」 「では、力が争いの源なのでしょうか?」 「まあ、僕の説明だとそうなるよね。」 「では、力自体をなくしていただきたい。」 「わかった。じゃあ、明日にでもそのようにするよ。」 「ありがとうございます。」  翌日、人間の世界から争い事はなくなった。人間は全て石に変わったのである。武器をなくすまでもなかったのだ。  邪神は予測が当たったことを喜び、結果をノートにまとめてこうつぶやいた。 「力っていうのは、優位性の現れっていうことがなぜ、わからないんだろうか・・・。しかも、優位っていうものが何かを序すために存在しているっていうことがわからないのかな…。人間が動物である以上、力を持たないっていう選択肢はあり得ないのに、それに気づかないのは愚かだよね。まあ、だから僕は人間が好きなんだけど」  人間が大好物である邪神にとって、自身の作り変えた人間は楽しくないものになってしまった。 邪神は人間をリセットしたのだった・・・
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