1.ネコと尻尾

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 公園のベンチで男は退屈そうにポケットから懐中時計を取り出すと時間を確認する。それにしても奇妙な懐中時計だった。時計というのは本来、短針と長針の日本で時刻を確認するものである。しかし、その時計には長針しかついていなかった。初期の短針だけの時計のようにも見えなくはないが、指し示している時間もおかしい。  公園に設置してある時計に目をやれば、時刻は昼過ぎ。だが、時計の針は六時を指していた。夏間で日の時間が長いという訳ではない。そもそも、これは時計ではない。懐中時計のような形をしているが、これには時計としての役割はもたされていなかった。これは、所有者であるトレジャーハンター、トコリコ・OF・THE・ブレスが次の世界に移動できるようになるまでの間を指し示していた。  異世界を旅しながら宝を探しているトコリコは本来、次元を飛び越えるような力は持ち慌ていない。それを可能にしたのが、彼の故郷の科学者に造らせた懐中時計と連動するトコリコ自身の莫大なエネルギー。トコリコのエネルギーを溜めることで次元を飛び越えるほどのエネルギーを発生させられるようになる。時計の針が一周すればエネルギーが溜まった証でありいつでも、世界を飛び越えられるようになるのだが、今回はエネルギーの溜まりが揺るやかだった。いつもだったら、半日もあればエネルギーは溜まり世界を旅立てるようになるのだが、2日経ってようやく半分が溜まったところだった。そもそも、普段ならエネルギーが溜まる時間など気にも止めない。それぞれの世界で宝を探している最中にエネルギーは溜まっているのだからだ。だが、今回の世界にはその宝の情報というのがなかった。世界観としては、二十一世紀初頭頃の平穏な街並み。新聞の記事には外国での紛争が小さく載っているぐらいで、この街は至って平和だ。  一晩、ネットカフェに泊まって情報集めに興じてはみてはしたものの、見つけられたのはインターネットに広がる怪しい噂話やゴシップ記事ばかり。宝の情報を探してみたりもしたもの、考古学の情報ばかりでトコリコが望むような浪漫や興奮に溢れる宝話など一切見つけられなかった。
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