3.【憎悪】の剣先

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 珀は剣を後ろに引くと、もう一度、トコリコを斬ろうと駆け出した。  本当に遠慮をしているヒマはなさそうだ。グラスから与えられた力を使わずして、それだけの実力を持っている。油断していれば、殺されてしまう。 「“低速する世界(スローダウン)”」 「!」  珀は突然、全身に重さを感じた。立ち止まり、何が起こったのか見ると、ピースが魔力を凝縮し魔法の弾として撃ち出すことができる魔銃器を抱えているのが見た。いや、ただ構えていたのではない。すでに撃ち出したあとだった。 (重力系の魔法か・・・)  珀は冷静に自分の身に何が起こったのか。それを分析していた。魔力がない彼には自分の周りに“スローダウン”の魔法が発動しているのが見えない。  ピースにしてみれば、相手は〈スロク〉であり素早さに特化している。ならば、その速度を殺してしまえばと“スローダウン”を使った。効果はあり、珀は先程に比べて自由に動くことができなくなっている。 「キャロンさん!今です!」 「ええ」  キャロンは錨のマークを象った髪飾りを取ると軽く口づけをした。 「海姫変身(マリンフォーゼ)」  瞬時に水兵風だったキャロンの服装は海賊風に変わる。銀髪も金髪に、変身後の彼女はまるで別人のようだった。  海姫に変身するのは単に容姿が変わるだけではない。海姫の二つ名に因んだ、特別な力が備わるのだ。キャロンに与えられた二つ名は『大砲』。大砲の海姫がキャロンが、海姫として戦う上での通り名となっていた。  髪飾りの錨のマークを首にぶら下げると、海姫に変身したキャロンは地面を蹴った。自身を大砲の弾として打ち上げ、珀の頭上高くまで飛び跳ねる。足を伸ばし落下する重力を利用し、動きが鈍くなっている珀に着地地点を合わせた。 「ヘビーキャノン」  ピースが展開する“スローダウン”を発動させた空間では速度が増す。通常の大砲の蹴りよりも重い一撃を珀に与える。ラファエルのように攻撃を防ぐ手段をもたない彼なら、確実にダメージを与えることができるはずだ。 「束縛術・縄蜘蛛」  さらに、珀の動きを封じる為にネロはロープを張り巡らせ、それで彼の足を縛り上げた。あとは胴体と腕を封じてしまえば、動くことはできない。文字通り蜘蛛の糸に絡め取られた虫けらも同じ。
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