3.【憎悪】の剣先

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「・・・やはり、これまで何度も〈スロク〉と戦ってきたことだけはある。その力は侮り難い。だけど、まだ決定的ではない。その程度では、僕にも勝てない」  珀はそう言って、目を閉じた。何をするつもりなのか。 「そろそろ、君達にも見せてあげるから。僕が見ている『世界』を・・・」  珀は敗北を悟り瞑想していたのではなかった。一度、目を閉じたのは自分を取り囲むトコリコ達の意思と自分を連動させる為であった。  目が開かれた時、トコリコ達は今までとは違う世界を目撃することになる。 「『共有世界(コミニティ)』。それが、グラスが僕に与えた力」 ----なんだ・・・?これは・・・。  不思議な感覚だった。世界は何一つ変わっていなかった。風景も人も、そこにあるものも。ただ、一つ違っていることがあるとすれば、すごく遅かった。  加速し珀を二秒後ぐらいには討ち取れるほどの速度で落ちていたはずのキャロン。彼女の動きが極端に遅くなっていた。まるで、一秒が何十、何百倍にも引き延ばされたかのように。 (なにをされた・・・!)  トコリコは自分の身体にも異変が起きていることに気付く。いつもなら、かなりの速度で治るのはずの傷が、ものすごく遅くなっていた。首輪の力で生命力を増幅しても治癒が鈍化したままだ。それだけではない。身体が拘束されたかのようにほとんど、動かないのだ。 (く、くくく・・・!)  トコリコは訳の分からぬ現象に動じながらも左腕を動かし、珀にチャージガンの狙いを定める。  全てが遅くなっている中で、珀だけが動けている。素早いとは程遠い動きではあるが、自分達よりはずっと早く動けている。  まるで、スローモーションの映像でも見せられているかのように、珀は足元のロープを剣で切ると、“スローダウン”の空間を抜け出た。ゆっくりとした動きでピースを斬り、飛び跳ね空中にいたキャロンも斬り、そしてネロも斬った。 (どうして、動かない!)  チャージガンを撃ち出そうにも、撃ち出すのに相当な時間が掛かっている。 「刹那の一瞬って知ってるかい?」  拍は動けないトコリコ達に問う。刹那の一瞬について。  刹那の一瞬。それは、動体視力などが一時的に上がり、様々なものが遅く見える現象のことを言う。侍同士の斬り合いや、ボクサー同士の戦いに希に本人達の間に起こる奇妙な現象といったら分かるだろうか。
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