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(虎子?まさか、トコリコ達に同行していたのか!)
意外な人物の登場に珀は慌てた。元の時間の流れで、彼は虎子とは〈スロク〉になるまで、再会することはなかった。いつも、金稼ぎに勤しんでいるので、どこかで稼いでいるとは思っていた。それが、まさか、トコリコに同行していたなど予想すらしていなかった。
虎子の強襲に気付くのが遅く、防御の態勢をとれなかった。虎子がシャベルを振り回し、鋤を珀の左腕に当てた。珀が〈スロク〉に加入してしまったことは聞かされていた。だから、遠慮などする必要はなかった。
「があ!」
珀は悶絶の声を上げる。よりによって、左腕を狙ってくるとは。
(虎子・・・。僕の利き腕をまだ覚えていたのか・・・)
珀は激痛が走る左腕を右手で庇うも遅く。今の一撃は、長袖を切り裂き、その下に隠れていた。彼の左腕に刻まれた逆さまの十字架、〈スロク〉のマークを傷つけられた。
珀に刻まれた〈スロク〉のマークが傷つくと、彼はその傷痕を押さえるように手で覆い隠す。傷口からは血ではなくドロドロとした黒い液体のようなものが漏れ出している。地面に落ちたそばからそれは地面を腐食させ染みのような痕を残す。珀が集めていた【憎悪】が目に見えるほどに濃くなった結果である。人が直接触れば、一瞬にして【憎悪】に飲まれしまうほどのそれは、地面を腐食させるには十分すぎた。
「ぐ・・・」
珀は横一文字に傷つけられた逆さまの十字架はすぐには復元されなかった。〈スロク〉には個人差があるとはいえ自らの身体を復元する力を有している。だが、傷つき【憎悪】が漏れ出した逆さまの十字架はその傷口が塞がれる様子がない。
なぜか、トコリコが疑問に感じた次ぐの瞬間、珀の『共有世界』が解かれた。一秒が何百倍にも感じされた世界が急に元の時間に戻る。急激な変化にトコリコ達はすぐ、次の行動に移ることができず、その場に留まってしまう。
長い長い時間から解放されたトコリコ達は感覚を取り戻そうと呼吸を整えていた。トコリコですら、あの長く遅い時間には精神を削られた。もと、ずっと、あのまま、珀の『共有世界』が解かれることなく続いていたと思うと恐ろしい。
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