3.【憎悪】の剣先

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 珀は後ろに引き下がり、透明な剣を持ち態勢を立て直すと、久々に会った虎子と身構える。 「虎子。相変わらず、アルバイトか?」 「そういう、珀こそ。数ヶ月ぶりね。でも、アンタの時間だと十数年ぶりかしら」  奇妙な感覚である。虎子にしてみれば、育った羽久留間教会を出てからまだ、数ヶ月の時間しか経っていない。だが、珀にしてみれば、虎子が居なくなり、歌倶夜も行方知れずになってから十数年の月日が流れていた。  〈スロク〉に加入しグラスに多少の改造を施され、少しは若返っているとはいえ、虎子とは時間に大きな隔たりがあった。 「だったら、僕の力を覚えているだろう」 「そういう。アンタも、あたしの素性も知っているでしょう?」  同じ教会の出身。虎子も伯も互いの力を理解し合っていた。  相手の動きが遅く見える、永遠というべき刹那の一瞬が見える珀。  どんな状況だろうと、万能で平均的に動くことができる虎子。  双方とも歌倶夜に〈スロク〉に対抗できうる人材として選ばれた者同士。それが、僅かな違いから立場が二分されてしまった。 「・・・変わっていないな。虎子は昔から」 「変わったのはアンタの方でしょう。よりにもよって、あの〈スロク〉のメンバーになるなんて」 「ああ。だが、僕は後悔していない。分かるか?歌倶夜さんが帰ってくるまで、僕はずっと羽久留間教会を守っていた。だけど、所詮は慈善事業のようなものだ。誰も知らないような敵と戦う為だけに作られた組織。資金ぶりが悪化すれば、たちまち、教会は閉鎖。預かっていた子供達は四散した」  珀は忌々しく【憎悪】に満ちた顔と声で言う。 「・・・それでも、僕は歌倶夜さんから預かった子供達を守ろうとしたさ。だが、力及ばず泣き叫ぶ子供達は僕が見ている目の前で生きたまま解剖された。一部の金持ちと権力者の玩具として!腐れた豚共が己が生きる為だけの臓器(どうぐ)として!その時だ。僕が強い【憎悪】に目覚めたのは」  珀は今でも当時のことは覚えていた。吐き気を催そう悪魔の宴を。命の尊厳も何もなく、ただイタズラに命を弄ぶだけの邪悪な宴。  珀には人を斬り殺したという自覚はなかった。ただ、化け物を殺したという自覚だけだった。
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