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トコリコは黙って右手を差し出した。差し出して、そのまま、珀の懐に拳を叩き込んだ。
「トコリコ!」
トコリコの行動にネロは思わず、声を上げた。向こうからの申し出。〈スロク〉を倒すには欠かすことない強力な助っ人だというのに、彼はそれを断ってしまった。
懐を殴られた珀は飛ばされ、そのまま、観客席に身体を強打し項垂れた。
「ぐ・・・!」
「お前、誰にものを言っているか分かっているのか?」
トコリコは右手の力を増幅しつつ珀に言う。
「奴との決着はオレ様がつける。奴の配下にいる者と手を結べと本気で思っているのか?」
「く・・く・・・」
トコリコは珀と協力する気はなかった。どこまで、本当のことか分からない以前の問題だった。トコリコにとって、最大の敵はグラスであり、その配下にいる〈スロク〉など眼目になかった。彼らからは、グラスについての情報を聞き出すだけで十分であった。もし、邪魔をしてきた時は倒すまでのこと。
「く・・・く・・・ははははは・・・。あーはっはっは!」
なにがおかしいのか、トコリコに殴り飛ばされた珀は腹を抱えて声をあげ笑った。
「なにがおかしい」
「いや、悪い。悪い。やはり、僕の思った通りの人だ。トコリコは。何者にも流されることない。絶対的な意思をもった存在だと」
珀はトコリコがそう言う、行動に出ると分かっていた。分かっていたからこそ、刹那の一瞬が見えるにも関わらず、真正面からの拳を避けることなく受け付けた。
トコリコの『答え』を。
「断られるのは思っていたさ。いくら、僕が〈スロク〉を【憎ん】でいるからって、協力するはずはないと」
「だったら。何故」
「協力をしてくれとはいわない。僕は僕のやり方で、〈スロク〉を殺すまで。僕には〈スロク〉を消滅させられる力がある」
「なんだと?」
あれだけ〈スロク〉を倒すことに必死だったトコリコ達。ところが、珀はそれを簡単に殺せるという。
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